【短編小説】序章
私は出来損ない.
みんなと同じように,何もできやしないこの体. 周りに悪影響だと,物置小屋の隅の部屋に監禁されてしまった.
わざわざ誰にも見られないような場所を掃除して,わざわざ私に足枷を付けて.そんなことしたって「私はどこにも行かないよ」なんてそんな言葉を信じてくれる人すらいなかった.
私は,両親以外から見つからないはずだった.ここに来るのはネズミだけだと思っていた.
「ねぇ,君.なんでそんなところにいるの?」
私の目の前に立つ少女は,麦わら帽子に白いワンピースを着た天真爛漫な少女.数日後,彼女の馬小屋通いがばれるまで彼女について知ることはなかったが,彼女はこの街の期待の......私とはかけ離れた存在の女の子だった.
(さあ,知らないよ.物覚えがついた時からここにいるんだ.)
発しようとした言葉は,音にはなれど声にはならなかった.私はしゃべり方も知らない.教えられたことはあるけど,発達の遅い私にはすぐに覚えることができなかった.
「話せないの?だったら教えてあげる!」
どうしてそんなことしてくれるのかわからなかった.自分がここにいる意味すら考えられない私は,急に入ってきた小さな光への興味でおとなしく教わることにした.
「馬小屋なんて近づくんじゃないよ!最近こそこそどこかに言っていると思ったら!しばらく家を出禁にします!!」
「本当に申し訳ございません」
外から声がする.もめている?
そんなあわただしい声の中に一瞬,いつも来てくれる女の子の声がした.
「ごめんね」
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その日を境に彼女は二度と来ることがなかった.彼女がいたのはたった数日のことだった.
彼女が教えてくれたセリフはとても小さな音にしかならないけれど,毎日練習したらきっと外に伝わるんじゃないかと思って少しずつ少しずつ練習した.
馬小屋の中には,彼女がこれなくなった前日,置いていった青い瓶と,紙とペン.
これで練習しよう,自分のことを誰かに伝えよう.声を出す練習も,文字を書く練習もどちらもすればきっといつか会えるんだ.
あの子に,もう一度.
小さな叫び声で,誰かに届けと毎日叫んだ.
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「この紙とペンはなんだ!!どこから盗んできた!!どうやって外を出た!!?」
父親についにばれた.水と乾パンを届けに来た父親に......
「いや……これは……あの……」
「てめっ,しゃべれるのか!なんだ盾をつく気か?」
胸ぐらをつかまれ,浮き上がる体.手紙を入れた瓶だけは放したくないと,精いっぱい握った拳に力を入れた.
もってきてくれた食事は消え去った.ぶちまけられた水に,踏みつけられた乾パン.1週間ぶりの食事がなくなった.もう限界だった.
「自由になりたい,だけなのにな......」
神様なんて不平等だ.願いなんて一つも聞いてくれない.
外に出たかっただけなのに,あの子にもう一回会いたいだけなのに.
握りしめたはずの瓶が馬小屋の端に転がっていく
(あれ?)
視界はぼやけ,馬小屋が暴れ始めた.もう少し大丈夫だと思っていた体は,等に限界を超えていた.
「誰かきいてよ,私の声を......」
馬小屋に漏れ出づる月の光が,私を天に導いた.
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楽曲 「Op.2 前奏曲」作成背景小説
作成秘話